これまで何となく意識の中に
あった山が、絵を描きながら
形を変えていきました。
−今日は浅野孝之さんの”山の絵”についてお話をお伺いしたいと思います。
浅野さんは京都造形芸術大学で陶芸を専攻され、その後大学院で陶芸以外の既製品を使った作品や主に立体作品を制作されていましたね。
あまり浅野さんが絵画作品を作っている印象がなくて、浅野さんの中で新しい手法で制作されているように思いますが、山の絵を描き始めたきっかけがあれば教えていただけますか?
浅野孝之さん(以下 浅野):ときどき絵を描いていたのですが、展示する機会がなくて少しずつ作品が溜まっていっていたんです。
2021年から渓流釣りをはじめたので川の絵を描こうと思っていたのですが、川を描いていると川に付随する山も描くことになって、山がとてもいい感じに描けたんです。
あと、岐阜に住んでいるとほとんどの場所で視界に山が入ってくるので、日頃から山を自然と見ていることに気づきました。
これまで何となく意識の中にあった山の存在が、釣りに行って絵を描いてから、少しずつ形が変わっていった感じです。
−渓流釣りはどの辺りに行かれるのですか?
浅野:岐阜の山県市の美山の辺りですね。景色がよく、水がとても綺麗な場所です。釣りをきっかけに山の絵を描き始めましたが、絵に関しては釣りはあまり関係ありません。
山の絵を描いていたら次第に楽しくなってきて数点作品を仕上げました。
−今回出品している作品は、どの順番で描かれたのですか?
浅野:まずラフで今回出品していない作品を描いて、次に”ただ君が眩しくて”を描きました。
僕が描いた山は、全て架空の山です。山を描いていますが、現実の山と関係がないものもあります。
”ただ君が眩しくて”は、空と山の境界線を描いてみたいと思って描き進めました。
−何かモデルにしてる山があるかと思っていましたが、架空の山なんですね。
浅野:モデルはありません。キャンバスに絵の具を垂らしていって、垂らした絵の具のアウトラインを山の稜線にして空と山を分けて描きました。
−タイトルの”ただ君が眩しくて”なのですが、絵とどのような関係があるのですか?
浅野:これは尖った山で、憧れや頂上が眩しい感じをイメージしています。
僕が描く時は、内容を具体的にイメージしない状態でキャンバスに描き始め、描きながらイメージを膨らまして固めていきます。
普段の制作は完成形がかなり具体的に見えていて、完成形に向かって作業をひたすら進めていくのですが、絵に関しては衝動的に描いて、描いたものが自分にとって何なのかを探っていってまた描いての繰り返しで完成形は見えていません。
”ただ君が眩しくて”も、描きながらだんだん眩しい気持ちがしてきてこの絵になりました。タイトルは抽象的です。
あと、描いている時間よりも、描いている途中や描き終わってこの絵は一体何なのだろうと考える時間の方がずっと長いですね。
−どの作品を見てもぱっとタイトルが思い浮かばないのですが、この作品のタイトルは何ですか?
浅野:”宙ぶらりんの宇宙”というタイトルです。最近描きました。
島みたいになっている山の作品なのですが、山の境界線を描いていて途中で全部の境界線を囲いたくなりました。
この作品は僕が途中から宙に浮いた山を具体的に描きたいとイメージして描いていったので、他の作品とプロセスが少し違いますね。
−この作品を見た時に、宮崎駿監督の天空の城ラピュタを思い浮かべました。
映画の最後に島が地球から宇宙へ飛んでいきますよね。上から飛んでいく島の様子を眺めていると、この絵のように見えるのかなと思いました。
絵の青い部分が空なのか海なのかわからない感じが面白いですね。
浅野:僕が立体作品を制作する時は現実的なテーマが多いので、絵は出来るだけ幻想的な風景を描きたいと思っています。
”宙ぶらりんの宇宙”は青い部分が海なのか空なのか、この山は浮いているのか沈んでいるのかわからないので、絵を見ながらイメージが膨らむ作品です。
−“月明かりと夢”は他の青っぽい背景の作品と比べると背景の黒が目立つ作品ですが、どのように描きましたか?
浅野:この絵のキャンバスには以前描いた絵が残っていたので、塗り重ねて仕上げる時に前に残っている黒色をそのまま残しました。
−この絵の前には何が描かれていたのですか?
浅野:何とも形容しづらいですが、リーゼントヘアみたいな感じの絵を描いていました笑
リーゼントヘアにも幽霊にも鷲にも見える絵です。
テーマはタイトルのままで、月に照らされた夜の山を描きました。山に照らされた月明かりを淡い白色で表現しました。山が夢を見ているようなイメージです。
−この作品だけ他よりもだいぶサイズが大きいく、他と比べると山を俯瞰しているような印象です
浅野:”風のトポス”というタイトルの作品です。
この絵を描いている時、とても穏やかな気持ちで、優しい絵にしたいと思っていました。
絵を描きながらゆらゆらした風を表現したいと思って優しい雰囲気の作品に仕上げました。
この絵の世界は気候が穏やかで、山が険しくない。部屋に飾ると落ち着いた気分になれるような作品です。
−今まで浅野さんが描いてきた山の絵についてお伺いしてきましたが、これから描きたい絵は何かありますか?
浅野:これまで描いてきた山など具体的なイメージはないですが、絵を描く時は無理なく描きたいので、思いつきでその時の自分の気持ちや感じていることとかを描いていきたいと思っています。
今後の絵はどうなるか自分でも想像できていません。その場その時にまかせて描いていきたいと思います。
僕の絵は難しい工程がなくて、キャンバスの上で絵の具を馴染ませていくだけで気づいたら山に形ができていくような感じです。
アクリル絵の具は上から重ねられるので、その時の気分で前の絵を修正でき、絵の具が重なって乾いていく。
僕が普段やっている陶芸の作業は、乾燥したら修正できないし焼き上がったらそれで終わりでいつも時間に追われる感じがしています。
絵は長い時間をかけられるので、これからもリラックスして制作したいですね。
浅野孝之
1985年 岐阜市生まれ
2010年 京都造形芸術大学大学院 芸術表現専攻 修了
2015年 岐阜県各務原市にて陶芸教室ちゃわんむし 開業
2021年 第三回ぎふ美術展 工芸部門 ぎふ美術賞 受賞
定期的に陶芸をテーマとした美術活動も継続中です。